甘草のこころ
皆さんこんにちは、院長の千々岩です。
昨年末、電子書籍で出版した「ストレス不調に効く症状別・安心安全な漢方薬10選」ですが、お陰様で、患者さんや友人の医師から多くの感想を頂いており、大変励みかつ、次回作を考える上での参考になっております。この場を借りてお礼を言わせてくださいm(__)m。
さて、今回は生薬「甘草(かんぞう)」について。

甘草が含まれている漢方薬は、多岐にわたり、およそ7割の漢方薬に含まれているとも言われています。特に、筋肉痛やこむら返りに有効な「芍薬甘草湯」、扁桃腺炎や咽頭痛に用いる「桔梗湯」は、読者の皆さんも服用されたことがあるかもしれませんね。
ちなみに、甘草単味からなる「甘草湯」という漢方薬もあったりします。
この甘草、名前そのまんまで、とっても甘~い生薬なのですが、砂糖の甘さに換算すると、約150~300倍の甘さとも言われています。
そして、漢方薬で用いられる甘草の働きですが、
- 他の生薬の効能を高める
- 他の生薬の毒性を和らげる
- 胃腸機能をアップさせる
- 炎症を和らげる
など、多彩な薬効を有しています。
中国では、「国老(こくろう)」という別名が甘草にあります。国老とは、引退したのちも「卿大夫(貴族)」の扱いを受けた人物を指す言葉です。
政治が好きな中国では、他の生薬を引き立てたり、なだめたり、漢方薬全体の秩序を守る「甘草」の働きから、この渾名をつけるに至ったのでしょう。
しかし、このように穏健・柔和・ハト派のイメージを持つ「甘草」ですが、漢方薬の重大な副作用の1つにも繋がる生薬の為、注意も必要です。
その副作用とは「偽性アルドステロン症」。
「甘草」内に含まれている薬理成分(グリチルリチン代謝物)の影響で、水分・塩分のバランサーが機能しなくなった結果、強力なステロイドホルモン(コルチゾル)が暴走し、体内の水分・塩分貯留を一方的におこなってしまうという現象です。
ざっくりいうと、体が「水を捨てるブレーキ」を失ってしまう状態です。
その結果、血圧上昇や浮腫、低カリウム血症といった副作用が出現することになります。
偽性アルドステロン症は、次のような場合に出やすくなります。
- 一日の甘草摂取量が2.5g以上
- 80代、90代の高齢者(バランサーの活性低下)
- 便秘傾向の人(グリチルリチン代謝物の増加)
ですので、ご年配の方や、漢方薬を複数処方する場合は、偽性アルドステロン症をなるべく起こさないための配慮が必要となります。
それなのに、肩こりや筋肉痛に対して「芍薬甘草湯(一日分の甘草6.0g)」を数か月分服用させるドクターが結構いたりするわけです(´・ω・`)…。
芍薬甘草湯は即効性が高い分、長期連用には向かない処方です。
甘草量が多い芍薬甘草湯は症状が強い時の頓服処方として使用する!
ブログの読者の皆さんは、自衛のためにこの事を覚えておいてください。
最後に、私の漢方の師匠である、元東洋医学会会長の伊藤 隆(いとうたかし)先生は、「甘草のこころ」を知りなさい。」と仰っていました。
甘草はもともと中国東北部や、モンゴルなどの主に乾燥した地域(砂漠地帯や草原)に生息する薬用植物です。(湿度が高い日本には自生していません)

そのため、乾燥した厳しい風土で生きていく植物が故に、体内において「水を逃がさない」メカニズムが異常発達したのかもしれません。
古代中国では点滴技術もなく、捕液や電解質管理もできませんでした。
そんな状況の中、甘草が多く含まれる処方が、循環血流量を保ち「抗ショック作用」として多くの人々を救ってきたのは、間違いありません。
こうしてみると副作用と有益な薬理作用はともに同じ現象であり、「表裏一体」であることがわかります。
漢方薬を安全に服用するためには、それを構成する生薬に関するバックグラウンドや、背景について思いを馳せるのも大事なことかもしれませんね。
それでは今日はこの辺で(^^♪