北風と太陽 ー 温かい無関心 ー
- 2026年1月2日
- コラム
皆さん、新年あけましておめでとうございます。
最初に皆さんにお知らせが(^^♪
これまで当クリニックのブログでは、ストレスと漢方治療について、
診察室内でよくお話ししている内容を中心に発信してきました。
このたび、それらの内容を整理し、一般の方にも読みやすい形でKindle電子書籍として纏めてみました。

「病院に行くほどではないけれど、つらい」
そんな段階でのセルフケアの選択肢として、参考にしていただければと思います。
なお、本書は治療を目的としたものではなく、症状が強い場合には医療機関の受診を前提としていますので、ご留意頂ければ幸いです。
さて、今回のブログのお題ですが、今回はイソップ童話「北風と太陽」について。
この話は多くの方が、小さいころに一度は聞いたことのある寓話だと思います。
ほとんどの方がご存じでしょうが、北風と太陽が「どちらが先に旅人のコートを脱がせられるか」を競うお話です。

「あらすじ」
まず最初に北風は、コートを吹き飛ばすべく、力いっぱい冷たい風を吹きつけます。すると旅人は寒さに耐えようとして、ますますコートを離すまいと抵抗します。
次に太陽が、穏やかに、あたたかく旅人を照らします。
すると旅人は、暑さに耐えかね自分から自然に上着を脱ぎました。
この話は、「優しさは力に勝る」という教訓で語られることが多いのですが、
心療内科の診察室でこの話が思い浮かぶ場面は、実は少なくありません。
<コントロールしようとする意志を感じると、人は固くなる>
私が担当している患者さんの親御さんや配偶者の方から、しばしばこのような質問について聞かれます。
「うつ病になった〇〇に、私はどう接するべきなのでしょうか?」
- 早く元気になってほしい
- このままではいけない
- 何とかしてあげたい
こうした気持ちは、とても自然で、むしろ愛情の表れであると思われます。
ただ、その気持ちが強すぎると、知らず知らずのうちに周りが「北風」になってしまい、患者さん本人に対するプレッシャーに働いてしまうのです。
- 「いつまで寝ているの?」
- 「気分転換に外に出たら?」
- 「前はできていたでしょう?」
これらは確かに健康な方にとっては正論かもしれません。
しかし、心身の不調の渦中にいる人にとっては、心を守るために、さらにコートを強く着込んでしまう合図になってしまうことがあります。
一方、太陽は旅人に「コートを脱ぎなさい」とは言っていません。
- 急かさない
- 評価しない
- 操作しない
ただ、安心できる環境を整えただけです。
すると旅人は、「脱いだほうが楽だ」と、自分で判断しました。
この「自分で決めた」という感覚は、心身の回復にとってとても大切です。
<温かい無関心というスタンス>
診察室で、患者さんのご家族から患者さんへの対応についてお話しするとき、
私はよく「温かい無関心」という言葉を使います。
少し矛盾した表現に聞こえるかもしれませんが、これは、
- 放置すること
- 突き放すこと
とは、まったく違います。
「いつでも手を差し伸べられる距離にいながら、相手を動かそうとはしない」
そんな関わり方です。
- 食事や生活の土台を整えることはサポートする。
- 困ったら相談できる空気はしっかりと残す。
でも、「どうするか」は本人へと返す。
これは、患者さんに対して何もしないことではなく、
周りが一番やりたくなる“介入”を、あえてしない
という、とてもエネルギーのいる関わり方です。
<自分自身にも、太陽でいる>
この話は、家族や周囲の人だけでなく、自分自身への向き合い方にも当てはまります。
- もっと頑張らなきゃ
- 早く治らなきゃ
- こんな自分じゃダメだ
こうした言葉は、自分に向けた北風的スタンスです。
一方で、
- 今はこれでいい
- 今は休む時だ
- 少しずつ慣れていけばいい
という言葉は、自分に向けた太陽的スタンスへとなります。
ストレス疾患が重症化した患者さんに対して、私は「休養診断書」を記載することがありますが、
多くの患者さんは、身体が物理的に休んだだけでは、すぐに回復することはありません。
「今の自分は休むべき時なんだ」と心からそう思えた時に、ようやく患者さんの心のエネルギーは蓄積され始めます。そして、エネルギーが十分にチャージされたときに、患者さんは「復職しなければならない」という物言いから「復職したい」という自発的にコートを脱ぐ状態へと変わります。
このように、イソップ寓話「北風と太陽」の話は、「どちらが正しいか」を競う物語ではありません。
人が変わるとき、「必要なのは正しさよりも、まず安心である」
そんなことを、静かに教えてくれる物語だと思います。
もし今、身近な誰かとの関わり方に迷っている方がいたら、
少しだけ自分が「太陽でいる」ことを意識してみてもよいかもしれませんね。
それでは今日はこの辺で(^^♪