不安コントロールと「さばくさらかし岩」
- 2023年2月26日
- コラム
皆さんお久しぶりです、院長の千々岩です。長らくブログ更新できずにスミマセンm(__)m。
先日、産業医で訪問している某企業にて、「最近更新してないんですか? 楽しみにしてるのに!」
と女性社員の方にお叱りを受けたので、久しぶりに書いてみることにしました(笑)。
今回のテーマは「不安」に関して。
以前のブログ「パニック発作の生物学的メリット」でも少し触れましたが、「不安」という感情は人間が生存していく上では、無くてはならないものです。
不安には「リスク回避システム」としての働きがあり、不安という感情があるおかげで、私たちは勉強や仕事においても前準備を怠らなくなりますし、毎年の健康診断の受診を行ったり、生命保険に加入することにも繋がるわけです。
ただ、何事も「バランス」が大事なわけで、過剰な不安は過呼吸や動悸、異常発汗といった自律神経の過剰興奮を引き起こすことにもなり、これが慢性化すると不感から恐怖の感情へと悪化してしまう恐れもあります。
こうなると、電車に乗れなくなったり、オフィスでの電話応答ができなくなったり、買い物にも出かけられなくなる、いわゆる不安障害の状態となり、自力ではなかなか改善が難しくなってしまいます。
ところで、不安の感情は脳内神経伝達物質の一つであるセロトニンと密接なつながりがあります。
セロトニンは巷では「幸せホルモン」と呼ばれているように、我々のネガティブな感情(不安や抑うつ)に、しっかりブレーキをかけてくれる機能を有しています。
一説には、我々日本人と、アングロサクソン系の人種間では、脳内セロトニン系のシステム(セロトニントランスポーター遺伝子)において、大きな差があると言われています。
例えば、このセロトニントランスポーター遺伝子のタイプは大きくSS型 SL型 LL型に分かれるのですが、(Sはshort Lはlongの頭文字を意味する)日本人はSS型を保有している割合が、白人や黒人に比べてダントツで多いのです。これは、セロトニンの利きが悪く、不安を感じやすい人たちの割合が日本人ではとても多いことを意味します。
恐らくこの傾向は、「和を以て貴しとなす」という日本人の国民性や、完璧主義に裏打ちされた職人や匠の技、果ては最近のコロナ禍においてマスク着用への意識が、諸外国に比べてとりわけ強いことにも反映されているように思えます。
そういえば、私の出身県、長崎にある時津町には、「さばくさらかし岩」という奇妙な岩と、それに纏わる民話が残されています。日本人の不安特性をよく表している為、ご紹介しましょう。
『あるところに心配性の百姓がいました。ある日、漁をすると、たくさんの鯖が釣れました。
百姓は長崎へ、鯖を売りに行くことにしましたが、街道の途中に今にも落ちそうな岩があったので、「おっちゃけてから行こたい(岩が落ちてから街道を進もう)」と決めて、岩が落ちるのをじっと待っておりました。しかし岩はなかなか落ちてきません。そのうち売り物の鯖はすべて腐ってしまいました。
百姓ががっかりしていると、通りかかった村人が「この岩は落ちることはないんじゃ、それを知らなかったのはものぐさなお前だけじゃ」と笑いました。』 (おしまい)
アニメ日本昔ばなしにも取り上げられたエピソードですが、不安にとらわれすぎた場合のデメリットについてよく表しています。もし百姓が、「地元民に早くから話を聞く」、「しばらく観察時間を経てから、走り抜ける」などの対策を取れば、大損することはなかったでしょう。
不安コントロールが、自分だけではなかなか難しい患者さんがおられましたら、このお百姓さんみたいに一人で抱え込むのではなく、当クリニックで気軽にご相談下さい。
ちなみにこの「さばくさらかし岩」、絶対に落ちない岩として、地元受験生に絶大な人気があるとかないとか( ´艸`)…。