ストレス疾患に使える、安心・安全な漢方薬その1. 半夏厚朴湯
皆さんこんにちは。院長の千々岩です。
開院3年目に入り、人気のクリニックに育ってきたことは嬉しいのですが、完全予約制の小さなクリニックのため、新患を診られるのが、お電話を頂いた1~2か月先になってしまい、私自身、忸怩たる思いを感じていました。
そんな中、初診までひと月以上待たせてしまった新患の患者さんが、意外にお元気だったことに私自身驚く場面が…!
何でも、ドラッグストアで購入した漢方薬が効いたようで、落ち込みや不安などが結構改善してきたらしいのです。
これにヒントを得て、軽度のうつ状態や不安、イライラ、不眠、動悸、ストレス時の胃腸症状などに対応できる、比較的安全な漢方薬をブログで紹介してみることにしました。
これらの中には、ドラッグストアで購入できるものもありますので、当クリニックの予約を待つ期間中、患者さんがご自身で漢方薬を選択する際にも、きっと役立つことでしょう。
但し、念のために追記しておきますが、これらはあくまでも急場の一時しのぎ用の処方です。
これまでのブログでも強調してきましたが、症状がたとえ良くなってもストレス病の完全なる治癒に繋がらないことが多いので、お気を付けください。
また、漢方薬といっても副反応はゼロではありませんので、クリニック受診下において血液検査など定期的フォローはやはりあった方が安全です。
こういったことを踏まえて、紹介する抗ストレス漢方薬ですが、第一回目は「半夏厚朴湯」を取り上げてみます。
<構成生薬>
半夏(はんげ)、厚朴(こうぼく)、生姜(しょうきょう)、蘇葉(そよう)、茯苓(ぶくりょう)
<証:適合するタイプ>
気分が塞いで、喉のつかえ感、動悸、めまい、吐き気などを訴える、几帳面・完璧主義の性格傾向の人によく用いられる。
<解説>
咽喉頭神経症(いんこうとうしんけいしょう)とは、喉や喉頭に不快感や異常感覚があり、耳鼻科や胃カメラなどの検査では明らかな病変が見つからない状態を指します。
この状態では、何かが喉に痞えていたり、痰が絡むような感覚がする為、しきりに咳ばらいをしてしまったりします。
精神医学的には「ヒステリー球」と呼ばれ、不安やストレス状態が高まった時に出現しやすい特徴があります。
また、漢方医学的には「梅核気」(ばいかくき)や「咽中炙臠」(いんちゅうしゃれん)と呼ばれ、前者は喉に梅干しの種が引っかかっているような感覚、後者は喉にあぶった肉がはりついている感覚という意味になります。
このような状態に用いるのが、半夏厚朴湯です。
半夏厚朴湯は、理気剤といって、身体の「気」を巡らす作用があります。
「気」とは、電気や空気のように、目には見えないけれど、確かに存在する生命エネルギーのことを指します。 (漫画ドラゴンボールでの気は、目に見える存在になってますね( ´艸`))
漢方医学では、この「気」が身体のある部分でうっ滞、すなわち通過障害を来すことを、「気鬱(きうつ)」、もしくは「気滞(きたい)」と呼び、ヒステリー球の場合のどで気が痞えている状態と考えます。
理気剤は、この気の通過障害を改善させる作用を有しています。
半夏、厚朴、蘇葉、生姜で「気」を巡らし、茯苓で精神安定や、胃の中の余分な水分処理を図る。
そのような生薬構成となっています。
構成生薬の中には、皆さんに馴染みのある紫蘇の葉(蘇葉)や生姜が含まれていますね。
紫蘇の葉には精油成分が含まれており、半夏厚朴湯の薬湯の蒸気を嗅ぐだけで、気分が落ち着くのを感じる人も少なくありません。
また、生姜には、吐き気止めの効果があるため、半夏厚朴湯はストレス性の吐き気や、妊婦さんのつわりの症状にも応用可能です。
半夏厚朴湯の名前にもなっている半夏という生薬ですが、カラスビシャクのコルク層を除いた塊茎のことを指します。
夏至から11日目の半夏の頃にカラスビシャクが生えるので、「半夏」と呼ぶようになったとか、逆に半夏が先で、「半夏が生じる時節」ということで、「半夏」という名称ができたとか、幾つかの説があります。
ちなみに半夏の別名は「ヘソクリ」であり、昔、農家の女性が塊茎を拾い集めて、薬屋に売る副業をしてお金を貯めていたことが語源と言われています(笑)。
半夏厚朴湯のエキス製剤をお湯に溶かすと、蘇葉の紫色をした風味の良いハーブティみたいな薬湯になります。癖がなく、万人が飲みやすい漢方薬のため、ファンが多い漢方薬でもあります。
ストレスでなかなか不安がとれない方、寝付けない方、喉のつまりが気になる方は試しに飲んでみられては如何でしょうか(^_-)-☆。