うつは漢方で治るのか?(前編)
こんにちは、院長の千々岩です。猛暑に台風に、過ごしにくい毎日が続きますが、皆さん如何お過ごしでしょうか?
今回のテーマはうつと漢方のお話です。改めてうつ病について説明すると、
なかなか気分の落ち込みが回復せず、仕事や趣味への意欲や興味を失ったり、幸福感が乏しくなる精神状態は、抑うつ状態と呼ばれます。この抑うつ状態が、少なくとも2週間以上ほぼ毎日続き、日常生活に障害をきたす状態にまで重症化したのが、うつ病です。
うつ病では、精神的なエネルギーが枯渇している状態と言い換えられます。車で例えるなら「脳内のガス欠」、スマホで例えるなら「脳内のバッテリー切れ」といったところでしょうか。
当クリニックに来られる初診患者さんの中には、うつ病やうつ状態をなんとか漢方薬で治療してもらいたいと希望される患者さんが多くいらっしゃいます。
その中には、過去に抗うつ薬の副作用でキツイ思いをしたり、ご家族が精神安定剤がやめられなくなるのを目の当たりにして現代薬に不信感をもった、という患者さんが多いように思います。
なので、安全そうで自然に良くなるイメージがある漢方薬で、改善を図りたいということなのでしょう。
しかし、本当に「うつ病」は漢方薬で良くなるのでしょうか?
私の20数年の拙い臨床経験から言うならば、『ケースバイケース』と言えるでしょう。
ちなみに私が、うつに漢方治療を検討するのは以下のような場合です。
1:うつ病自体が軽症であり、希死念慮(死んでしまいたい気持ち)がほとんど見られないケース。
2:季節変化や月経周期、更年期に伴いうつ気分が悪化するケース。
3:既に十分な抗うつ薬が処方されているのに、なかなか良くならないケース。
順に説明しましょう。うつ病といっても軽症から重症まで様々なものがあります。
日常生活や社会生活に問題が現れている中等症以上のうつ病では、脳にダメージが蓄積されていると考え、抗うつ薬の処方は欠かせません。完全に電池切れになったスマホを使えるようにするためには、充電が欠かせないことと同じです。
一方、軽症うつ病ではカウンセリングや心理教育、環境調整が主な治療方針となります。この場合、抗うつ剤などの薬物療法は必須ではありません。しかし漢方医学の概念の一つ「気血水」のうち、「気(目には見えないが、確かに存在する生命エネルギー)」に着目することで、大きな治療効果をあげることが可能です。
例えば、「気」が不足して元気がない、気力がない「気虚」の状態には、人参や黄耆といった生薬が含まれている補気剤が有効ですし、なんとなく気分が晴れない、のどが詰まる、お腹が張るといった気鬱(きうつ)の状態には、蘇葉や陳皮、香附子といった生薬が配合された理気剤が有効です。
そして二つ目のケースですが、うつ病の状態では、自律神経系やホルモンバランスの状態が敏感・脆弱になっていることが少なくありません。特に女性の場合、月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)や更年期症候群に代表されるように、女性ホルモンのバランスが崩れることは、深刻な体調不良をもたらします。
この場合、「気血水」のうち、「血(体内を循環する赤い液体。血液を含む栄養物質とその機能)」に着目します。
貧血傾向や肌荒れといった「血」が不足している「血虚」の状態に対しては、当帰や川芎、芍薬といった生薬が含まれる補血剤が有効ですし、「血」の循環不良による、月経前のイライラや月経不順を伴う「瘀血(おけつ)」という状態に対しては牡丹皮や桃仁といった生薬が含まれた駆瘀血剤が有効です。
大事なことは、うつ病やうつ状態の中には、心理的ストレスや精神的要素のみが関係しているのではなく、「ホルモンバランスの乱れ」や「自律神経機能の脆弱さ」といった体質的な要素が絡んだうつも確かに存在するのです。このようなケースでは、抗うつ薬だけでは十分な治療効果は挙げられず、漢方薬を組み合わせた「東西ハイブリッド治療」が欠かせません。
そして最後の3つめ、「既に十分な抗うつ薬が処方されているのに、なかなか良くならないケース」に関する漢方治療ですが、これに関してはスペースを取るため、次回に回しましょう。
続きをお楽しみに(^^♪